大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和22年(れ)6号 判決 1947年11月26日

主文

原判決を破毀する。

本件を廣島高等裁判所に差し戻しする。

理由

辯護人龜岡秀二郎の上告趣意書第二點は、「本件辯護人龜岡秀二郎ハ本年五月十日ニ行ハレタル原審公判廷ニ於テ被害者横山久子ノ喚問ヲ申請シタガ原審裁判所ハ之ヲ容認セズ却下シタノデアル乍併被害者横山久子ハ豫審廷ニ於テ被告人ニ犯罪ノ着手アリタル旨供述シテ居リ憲法ノ施行ニ伴フ刑事訴訟法ノ應急的措置ニ關スル法律第十二條ニ所謂記録ノ供述者デ原審裁判所管内ニ居住シ其ノ機會ヲ與ヘ得ルノミナラズ著シク困難ナル事情モナイノデアル」と云うのである。

仍って原審公判調書によると辯護人は原審公判廷で被害者横山久子の證人訊問を申請し原審はこれを却下したものであることは明らかである、而して原審は原判示の事実を認定するにあたり豫審に於ける證人横山久子に對する訊問調書の記載も證據の一部に採用してゐることも原判決により明らかなところである、ところで日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に關する法律第十二條第一項によると證人その他の者(被告人を除く)の供述を録取した書類又はこれに代わるべき書類は被告人の請求があるときは、その供述者又は作成者を公判期日において訊問する機會を被告人に與へなければこれを證據とすることができないと規定しておる、そして右規定による被告人の請求は刑事訴訟法上如何なる方式で行われなければならないかについては別段の規定はないが刑事訴訟法の規定に基づき供述者又は作成者を證人として訊問申請をしたときは前記應急措置に關する法律第十二條第一項の規定に基づく供述者又は作成者の訊問の請求があったものと解するのが妥當である、從って本件において原審辯護人は被害者横山久子を證人として申請したのであるから横山久子を豫審における供述者としてその訊問の請求があったものと解すべきである、そして本件においては供述者を訊問する機會を與へることができない場合であるとか又はそれが著しく困難な場合であることは記録上これを認めることはできない、然らば原審は原判示の事実を認定するにあたり原審辯護人の右請求を容れて豫審における供述者横山久子を直接に訊問をする機會を與へなければその訊問調書を證據とすることができない譯である、しかるに原審はこれを爲さずして右訊問調書の記載を證據の一部に採用してゐるのであるから所論のように被告人の享受すべき權利を阻止した違法があるから本論旨は理由がありこの點において原判決は破毀を免れない。

仍って他の論旨に對する説明を省略し刑事訴訟法第四百四十七條第四百四十八條ノ二第一項により主文のように判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例